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 一週間くらい前。カレンダーの数字はというと12と26のクリスマス翌日である。

 一昨日部室でクリスマスパーティの名の下SOS団とプラス鶴屋さんでバカ騒ぎをし、さらに長門のマン

ションに行って遊び倒した後、昨日は昨日でクリスマス本番、今度は家族プラス妹の親友ミヨキチをまじえ

て騒いだものだから俺の体力など残っているはずもなく、さらに友達とお泊りというハイテンションな状況

のためかなかなか寝付かなかった妹とミヨキチのために一日遅れのサンタとなるべく夜中まで待機しており、

追い討ちの如く今日はSOS団部室の掃除に赴くため強制早起きなのだから、朝が苦手な俺にとっては致命

的に最悪な寝起きといえよう。

「寒っ」

 と俺が思わず呟いてしまったのも道理で、布団に包まったまま窓の外を見れば向かいの家の屋根に雪が積

もっていた。こうなるとますます布団から出たくなくなる。どうして俺が外に出なきゃならんのだ。だがま

あ俺が異を唱えたところでハルヒが聞き入れるわけもないからな。長門のために出向くとするか。

「わぁ、ミヨキチっ。プレゼントがあるっ」

「どうしたの? …………わあっ」

 湯たんぽ代わりのシャミセンを抱えて布団から這い出たところで、妹の部屋から歓声が聞こえてきた。誰

が犯人かつき止められる前に家を抜け出すとしよう。こういうのはこっそりやる方がカッコいいからな。

 さっさとハミガキと朝メシを済ませて玄関で靴紐を結んでいると妹とミヨキチがどたどたと階段を降りて

きた。

「キョンくんー。サンタさんが来たっ。昨日も来たのにー」

「そりゃあお得じゃねえか。サンタさんに感謝しとけ」

「どこかに行くの?」

「学校」

 妹は聞いているのか聞いていないのか適当な反応だけすると「おかーさーん」と台所へ走り去ってしまっ

た。

 後に残されたミヨキチ、本名吉村美代子はとても外見からは妹と同学年だとは思えないほど大人びている

が、その表情は子供そのものの笑顔だった。どうやらプレゼントは気に入ってもらえたようで安心する。

「プレゼント、ありがとうございます」

 彼女は俺にペコリとお辞儀をすると妹の後を追って台所へと向かった。サンタを未だに信仰している妹は

ともかくミヨキチには気付かれていたようだ。この辺が俺の詰めの甘いところなのだろうが、俺の妄想は成

功しなかっただけで、なに、目的は果たせたさ。

 

 

 学校に向かうために歩いているとばったり谷口と出くわした。

「よお、谷口。どうしやがった、こんな休みに」

 谷口は何やらめかし込んでいて、そうか思い出した。デートか。

「いやあ、悪いなキョン。俺だけ勝ち組になっちまって。ぬはは」

「うるせえ」

 けっ、どうせすぐに別れるさ。お前のことだ、向こうから訳も解らないうちに振られることになるんじゃ

ねえのかね。

「何を言ってんだ。声を掛けてきたのは向こうの方だぜ。俺が振られるはずねえだろうが。それにランクな

んて付けられないほど可愛いしな、まるでお人形みたいでさあ」

 向こうさんから声を掛けてきたからって谷口が振られないということはないだろう。だがしかし谷口補正

が入っているとしてもそんなに可愛いのか。こりゃますます分からんな。どんな奴なんだ? その光陽園の

お嬢様は。

「そうだな……。黒髪が綺麗でな、こう、おしとやかというか。そう、人形みたいだな。あまり喋ってくれ

る方じゃないんだが、たまにすごく良く喋ってくれるんだよ、このギャップがまた可愛くてなあ」

 谷口よ、もうちょっと落ち着け。国語力が足りてないせいか、ものすごく分かりにくくなってるぞ。国語

の勉強が足りてないのはお互い様だが。

「おお、それで……ちょっと変わった奴なんだけど、一言で言うなら美人だな」

 さらに分からん。ひょっとして谷口がアホ過ぎて言葉が通じてなかったんじゃないだろうか。それかめち

ゃくちゃ変わりモンだ。

「何を言うか、クリスマスプレゼントを贈ったが、ちゃんと喜んでくれたみたいで良かったぜ」

 なぜかだんだん腹が立ってきた。なぜ俺がこんな谷口のノロけた話を聞かなくちゃならんのか。いや、聞

いたのは俺だが。友としては恋路を応援してやりたいのだが、それが谷口となるとなぜか無性に負けた気が

する。

「キョンは誰かにプレゼント贈らなかったのか?」

「今朝方妹の部屋に侵入してサンタになってきたところだよ」

「ああ? 妹思いなのは構わねーが、もうちょっと居んだろう。涼宮とか」

 なんでそこでハルヒが出てくる。

「つくづくお前も鈍いヤローだな。俺はお似合いのカップルだと思うぜ。ま、涼宮じゃないにしても、贈る

相手は居るだろ。長門有希とか、二年の朝比奈さんとかな」

 前半の谷口の思い込みはスルー決定だとして、長門や朝比奈さんに何か贈るってのはなかなか良いアイデ

アじゃないか。ハルヒに贈ったっていい。ここ一週間アイツには世話になった。クリスマスイブのハルヒ特

製鍋の味も格別だったしな。谷口、お前もたまには良いこと言うんだな。

「たまにとは何だ、たまにとは」

 そこで谷口は何かを思い出したように時計を見ると、

「おっと、もうこんな時間か。俺はマイエンジェルの下へ行かなくてはならん。悪いな、キョン。お前は涼

宮とよろしくやっといてくれ。じゃ、またな」

 谷口は最後に憐憫の眼差しで俺に一瞥をくれるとヒラヒラと手を振って走っていった。そのニヤケ面がい

つまで保つか楽しみにしておいてやるぜ。せいぜい今年中に振られないよう気をつけるんだな。

 俺は戦場へと銃弾のごとく駆けて行った級友に心の中で別れを告げ、SOS団アジトへと向かうべく再び

歩き出した。ま、あいつのことだ。バレンタインデーには一緒に二月十四日の有意義性を問うことになるだ

ろうさ。谷口がアホなのは明確だが悪い奴じゃないんだ。光陽園のお嬢様もそのあたりまでは谷口に良くし

てやってもいいんじゃないのかね。

 そんなことを考えながら歩き始めたところ、五十メートルも進まないうちに声が掛かった。

「やあ、キョン」

「国木田」

 目の前にいたのはこれまた俺のクラスメートだった。俺や谷口と比べたら学力は月とスッポンどころか木

星くらいは違うが。

 惜しいな。もう少し早ければ谷口のアホなニヤケ面を見ることができたのに。

「谷口はいつもそんな感じだと思うけど。キョンはどうしてこんなところに?」

「ご覧の通り。部室の掃除をしに呼び出され学校へ向かう途中だ」

「なるほど」

 そういう国木田。見たところお前も制服だが、補習にでも呼び出されたのか。

「いや、今日はこの近くで模試があってね。そろそろ三学期だから本腰を入れなくちゃと思って、学力を確

かめるためにも受けに行くところなんだ」

 だろうな。国木田が補習なら俺や谷口は留年すること確実だ。

「あ、そうそう」国木田は何かを思い出したように「昨日も模試だったんだけど、そこでね、懐かしい顔を

見たんだよ。誰だと思う、キョン」

 誰って……。ノーヒントか? いや、待てよ。国木田が知っていて、且つ俺も知っているとなると、中学

の時の誰かか。えーと。

「すまん。分からん。答えを教えてくれ」

「佐々木さんだよ」

 佐々木。それは中学時代俺が最も親しくしていた人物の名前だ。ついでに言うと、何だったかな。『僕は遺

伝子的に紛れもなく女なんだよ』だったか。俺にとっても佐々木にとっても親しくすることに性別は関係な

かったし、別段気に掛けることでもなかったのだが、どうやら国木田や伝え聞いた谷口にはいらぬ誤解が生

じているらしい。

「佐々木か。確かになつかしいな。そういや、あれから一度も会ってないな」

 国木田は少し驚いたような声で、

「そうなのかい? 僕はてっきり土日にでも会っているものと思っていたけど」

 国木田、お前は何か勘違いしてるみたいだが、俺と佐々木はそんな関係じゃない。ただの友達だ。それに

土日なら団長様に呼び出されてなんやかんやとするハメになるんだ。俺の土日の予定ならハルヒに聞いてく

れ。どうせ嬉々とした顔で『全部埋まってるわ』とか言い出しやがるだろう。

「それで、佐々木はどうだった。元気そうだったか」

「うん、元気そうだったよ。もっとも、向こうは女の子の友達と楽しそうに話していたから声はかけなかっ

たんだけど、僕も次の試験勉強で忙しかったしね」

「そうか。まあ、元気ならなによりだ」

 佐々木は変なところはあるが人付き合いで失敗するということはないだろう。中学のときも男女問わずう

まくやっていたしな。

「次に会ったら声でもかけてやれよ。国木田なら佐々木も喜んで受け入れるだろう」

「そうだね、そうすることにするよ。同じ趣向の身としても談義に花を咲かせたいところだしね」

 洋楽だったか。それもちょっとマニアックなやつ。

「うん。高校に入ればもう少し同じ趣味の人がいるかと思ったんだけど、やっぱりそうそう簡単には見つか

らないね。その点でも佐々木さんは貴重な友人だよ。そうだ、僕のおすすめのCDでも贈ろうかな。でもい

つ会えるか分からないってのが難点だよね。キョンはどう思う?」

 俺は洋楽のことはさっぱりだが、佐々木なら喜んでくれるさ。もし会ったら俺のこともよろしく言ってお

いてくれ。

 その後谷口がデートに向かいやがったことなどを話し、俺は国木田と別れて再び歩き始めた。

 

 しかし―――

「贈りもの、ねえ」

 さて、俺はどうしようかな。

 

 

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