「うそだろ……」
新年が始まりを告げ、人々がいつから習慣化されたのかもわからん参拝の儀を行うのは、ただ単に祭り的
側面を楽しんでいるだけじゃないのかという気もするが、そのような毎年恒例の行事を涼宮ハルヒが見逃す
はずもなく、我等がSOS団もその筆頭となり神社の鐘を鳴らしおみくじの結果に一喜一憂することとなり、
その帰り道で俺は新年も早々、驚嘆の言葉を上げていた。
いったいどうして俺は新しい一年を迎えたばかりのまだ日も昇っていない早朝からこんなことになってい
るんだろうな。もう少し穏やかに新年を始めたかったぜ。そうだな、七草粥を食うまで行かなくとも、三が
日が終わるまで、せめて元日ぐらいはそうしたかった。 「僕もできればそちらの方が嬉しいですね。ただ、このままでは穏やかに始めるどころか、元日の終わりを
迎えられる可能性も危うくなってくるかもしれません」 のっけからえらくネガティブな発言をしたSOS団副部長であり閉鎖空間限定超能力者という無駄に漢字
の並ぶ肩書きを持つ古泉一樹はいつもの微笑を浮かべながら俺の方を見つめてきた。やめろ、気色悪い。 俺は古泉の気色悪い笑顔をスルーし、隣に立っているSOS団マスコット兼未来人の朝比奈さんへと目を
向けた。朝比奈さんはオロオロと落ち着きのない様子で『私はなにをすればいいんでしょうか……』と呟い
ている。どうやら非常にあせっているようだ。いつもなら可愛らしい表情を瞼に焼き付けるところだが、今
回はそうもいかない。なにせ俺に余裕なんてこれっぽっちもありはしなかったからな。 そう、余裕なんてなかった。なにせこの時の俺は―――――― 俺は朝比奈さんからさらに隣へと視線をスライドさせる。セーラー服にダッフルコートを着て、頭はフー
ドにすっぽりと覆われている。そこにあるのはおなじみの無表情。ついこの間、世界をつくり変えちまう程
におかしくなってしまった少女。 「長門……お前」 情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。SOS団
にとっても、そして俺にとっても欠かすことの出来ない存在。長門有希。 俺は怖かった。 長門が、じゃない。長門がこれから発しようとする言葉を聞くことが、だ。 『今回が、一万五千四百九十八回目に該当する』 俺の脳細胞にこびり付いている一つの記憶。今年……いや、もう去年か。その夏休みのことだ。エンドレ
スに二週間をループし続けたあの一件。結果的には一万五千四百九十八回、約五百九十四年も繰り返した
。
もちろん俺が憶えているのは脱出できたたった一回分、たった二週間だけだ。だが、長門はそうではなかっ
た。五百九十四年分の全て、終わらない夏休みを記憶し続けていたのだ。そうしてエラーが蓄積し、十二月
十八日、ついに世界をつくり変えてしまった。 それが誰のせいかと問われれば、俺だ。 ループさせた張本人のハルヒではなく、エラーが蓄積して暴走した長門でもない。 ループをさっさと止められなかった俺であって、長門に頼りっぱなしだったクソ野郎は俺だ。 だから怖かったのだ。 今回も、俺はやってしまったのか、とそう思ったのだ。 既視感。そう、今回もそうだった。