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『結婚できるクスリ』

「へい、おまちっ」
私の前に淡々と寿司が並ぶ

今日、ここで父と会う約束をしている。
父は、誇れるわけではないがそれなりの会社に勤めているようで
学生時代、私は仕送りに助けられていた。

思い返す私を待たず、ガラガラと戸が開いた。

短髪で、疲れきった父が「元気そうだな」とほほ笑みかけた。
父は深いシワを作りながら笑顔で話し始めた。

「いそがしいところすまないなぁ・・・・・・今日は面白い話を持ってきたんだ」
そう言いながら私の隣に座ると、すぐに寿司が出てきた。
「常連なんだ」
また、嬉しそうに笑う
その直後私には面白くない話が始まった。

「ところで、お前、恋人はいるのか」
茶をすすりながら、問い詰めるわけでなく、興味がないわけでもなく
独特の雰囲気で聞いてくる。

「今はいない」
小さな声で答えた。

「今年で幾つになる」

「20代も終わりかな」

「そうか」

他愛もない、親子の会話。

「お前、結婚できるクスリって知ってるか」
お見合いの話が切りだされると身構えていた私にとって
即答のできない質問だった。

「のむだけで結婚できるクスリらしい」

「お父さん、もう飲むのやめたら」

「俺は酔って言ってるんじゃぁない」

「まぁきけ」

父は話を進める前に、少し歩こうと持ちかけた。
私が身支度をする間に、父がいつのまにか勘定を終える。

「結婚できるといっても必ずじゃない」
「結婚しやすくなるクスリなんだ」

「へんな宗教にでも騙されてるの?」

「そんなことはない」

「1本5,000円の祝福されたドリンク〜みたいなのでしょ?」

「馬鹿言うな、値段なんかその辺のジュースよりウンと安い」
 
「そう・・・・・・」

「もう宗教でもなんでもいい、騙されたと思って飲んでみろ」

「いや・・・その・・・・・・」

「そうやってうつ向く。昔からそうだ」
「人と話すときもそうだぞ、しっかり顔をみるんだ」

「だって・・・」

「では、さっきの寿司屋の板前に、ヒゲはあったかな?」
またも始まる父の唐突な投げかけに、即答できない。


見ていないから。


「沈黙も、また答え」
「さぁそうと分かれば明日の夕方、迎えにくるよ」

「ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫さ」
「紹介する研究者のウデは確かだ」
翌日の夕方約束どおり父が来た。
「またせたかな」

またもシワをつくる

「では行こうか」
半ば強引に博士の自宅とやらに連れて行かれる。
実はお見合いなのかもしれない。

車で20〜30分だろうか。それほど遠くない。
「ついたぞ」
父がインターホンを押すと
一人の男が出てきた。いかにもなボサボサ頭、無精髭、メガネ、白衣。
父と博士がしばらく話すと、どうぞ、と博士が言った。

部屋につくと、喉や眼球などを調べられ、アンケート用紙に記入するように
指示された。意味不明な質問の羅列により一層不気味だと思うほかなかった。

「うむ・・・」
博士は紙とにらめっこを始めブツブツと何かしゃべりながら奥の部屋に消えていく。

しばらくして片手に何かを持って戻ってきた。
「いいでしょう。問題ありません」
「これが例の」

ビーカーに入った液体は無色透明だが時々七色に光って見えた。

「どうぞ」
博士は私に、ビーカーをもたせた

「どうした飲め」
父は私を催促する

「い、いただきます」
味わう事のないように一気に飲んだが、味は全くと言っていいほどなく
軽やかに喉を抜けていく。

飲み終えると、父も博士もニッコリ笑い、お互いに深いシワをつくる
すると、博士が式場のパンフレットを持ってきた。
「どこがいいかね」
「ここなんかどうかね」
父と談笑が始まった。

「ちょっとはやいんじゃないでしょうか・・・」

「そんなことはない。必ずだからだ」
博士は力強く言った



こう思い返すのも1年半前の記憶になる。
あの1杯のクスリを飲んでからみるみるうちに気持ちが軽くなった。
人の顔をみて話すのなんて当たり前。下を向いていた時代が恥ずかしいくらいだ。
そして今、パートナーと博士の家に向かっている。

心から博士と父に感謝している。

インターホンを鳴らし、博士に案内され中に入ると
一年半前と全く変わらない父が、また深いシワを作っていた。
「今日はどうしたのかな?」

今日ここに来たのは、お礼のためでもあるが、
昔の私と同じような悩みをもつ会社の後輩に、博士を紹介しようと思ってきたのだ。

訪れた理由を説明すると、博士と父は顔を見合わせ大声で笑った。
「そろそろいいでしょう」

「どういうこと?」

博士は思い出したかのように歩き出し
水道から水を出し汲み取ると、私に差し出した。
「へい、おまちっ」
「?」

「一年半前に出したクイズの答えだ」
「板前はメガネに無精髭の男だった」

赤面する私に父は言い放った

「病は気から」



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