「さて、何の話をしようか」
 わたしは特に何もせず、ただ黙って話を聞いている。
「そうだね――こんな話はどうだろう。ある剣のお話だ。ああ――とは言っても一振りじゃない。二本だ。つがいの獲物。何から何までそっくりの、
ある双剣が主題の物語だ」
 
「昔々……ま、いつの事か詳しいことは知らないんだけどさ。そこは重要じゃないからね。とにかく、いつの時代か、ある双子がいたんだ」
 そう言って、適当に始まった物語に、することもないわたしは耳を傾ける。
「双子は普通の家に生まれて、普通の食事をし、普通の環境で育った。実に良いじゃないか。まあ、私には興味のないことだが」
 わたしにだって興味はない。というか、この話だって手持ち無沙汰だから仕方なく聞いているだけだし早く進めて欲しい。
「……しかし悲しいかな。双子だって完璧に同じというワケにはいかない。当然だ。どうあがいたところで、違いというものは生まれてしまう」
 当たり前だ。全く同じ人間が二人いる、なんてことは有り得ない。もし居たとすればそれは、人間じゃない何か別の紛い物だ。
「その通りだ。だけどこの双子は違った。あまりにも似すぎていた。度を越した同一だ。もちろん君の言う通り。そんなものが存在できる
奇跡は脆くて――すぐに瓦解を迎えた。
 きっかけは些細だ。なんてことはない。目の前に自分とそっくりな同じ物が居るんだ。
 自分と同じものを好み。自分と同じ結果を出し。自分と同じ思考をする。
 そんなの―――気持ち悪くて耐えられないだろう?」
 わたしは、わたしなら――どうだろうか。
「どちらが壊れていたのかは分からない。もしかしたらどちらも人間ではなかったのかもしれない。だけど迎えた結論は――もちろん両者ともに同
じだった」

  『あいつを殺せ』

「双子は殺し合った。それはもう壮絶な、己を賭けた潰し合いだ。周囲の事などどうでもいい。幸いだったのは、双子がまだ子供だったとい
うことだろう。大人たちが気づいた。決定的な一線を越える前に双子の争いは止められたんだ。その後、双子は引き離された。まあ、正し
い選択だっただろうな」
 わたしは思う。だけど、果たして――。
「そう。だけど、その通りだ。自分と同じあいつはまだ存在している。引き離されたあいつともう顔を合わせることもない。ああ……そうだ。
……違う、そうじゃない。あいつは自分と同じ思考をして同じ行動をするのだから。きっとどれだけ足掻こうと――」

―――殺し合うしかないんだ。


「まあ前置きはそんなところだ。重要な部分ではあるが、本題じゃない」
 声に少し悦びの色が混じる。ああ、こいつも馬鹿なやつなのか。
「双子がその後どうしたなんてわたしは知らない。だけど、ほら。私がこうして話をしているからには、大体の想像はつくだろう?」
 わたしは何も答えない。黙って聞いている。
「……君もつれないね。まあいいさ。結局のところ、決着は着いたのかどうかって話。真相はどうだか知らないけど、ここに面白い物があるんだ」
 わたしの前には一振りの剣が置かれている。
「この剣もね……双子なんだ。何人も何人も切り刻んで、それでも殺戮を止めようとしない。だってまだ目的は達成されていなんだから当然
だ。自分と同じあいつが気に入らないから。その妄執は持ち主さえも飲み込んで、もう一本を殺すために争う。ただ一方だけが存在する
ためだけの戦争だ」
 ……だけど、わたしの前にあるのは一つきりだ。
「そうなんだ。両方を手に入れた時に、どういった結果になるのか知りたかったんだが。片方を手に入れるのでも苦労したんだよ」
 わたしは目の前にある剣を観察する。
 白く濁った刀身が特徴的だった。長くもなく、短くもなく。これが本当に幾人もの持ち主を破滅させたのかと、疑ってしまう。よく見ると、
柄の部分に翠色の宝石で装飾がしてあった。
「外見にこれといった特徴は少ないだろう? 刀身が奇怪にねじ曲がっていなければ、燃えてもいない。そうだ。こいつの最大の特徴は、同じ
ものがもう一振りあるということだからね。まあ片方を所持していれば、嫌でももうひとつに巡り合えるだろう。こいつはそういう風に螺子曲
がっている存在だからな」
 もう一振りの映像がわたしの前に映し出される。
 …………あれ?
「ん? どうした。不思議そうだな。そんなに気になることでもあったか」
 さも当然というように声は答える。
 映像には確かにつがいのもう一方が映っている。
 目の前にあるのとそっくりな白い刀身。おそらく全く同じであろうその長さ。細部に至るまで、きっと寸分違わぬ位置についた傷。そして。
 そして柄の部分にある――紅色の――。
「おかしな話だろう。片方は翠、もう片方は紅。こんなにも違うのに、そっくりなあいつが許せない、と彼らは殺し合っているのさ」
 わたしは――
「だけど仕方ないさ。彼らにとってそこはもう重要じゃないんだ。後戻りはできないよ」
 
「さて。Case181はこの辺で終わりかな。また別の話を聞かせてやるから――……」
 わたしは閉じこもるように目を閉じる。
あるいは、もっと早くに気が付いていれば、別の道があったのかもしれないけれど――。

『おめでとうございます! 元気な男の子と女の子ですよ!』



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